流通ジャーナリストが選定!2026年食品業界でカギとなる5つのトレンドキーワード

 物価高騰が続く中、「次の商品はどんなテーマで開発すべきか」—食品業界ではこれまで以上に悩む声が増えています。消費者の価値観も複雑化し、食の選択基準も変化しています。 こうした動向を長年追い続けてきた流通ジャーナリスト・阿部牧人氏が、2026年の商品作りのヒントとなる5つのトレンドキーワードをわかりやすく解説。本記事には、“次の一手”を考えるためのヒントが詰まっています。企画・開発にぜひお役立てください。

はじめに:消費者行動の変化をひも解く

パフォーマンスに関する価値観が、コスパまたはタイパのみというシンプルなものから、複数の価値の組み合わせに徐々に変化している

 2025年も終盤に差し掛かる現在、食品業界は長引く物価高騰という厳しい環境に直面しています。単に「良い商品」を提供するだけでは消費者の心をつかむことは難しく、消費者の関心を引き付ける「仕掛け」が求められる時代に入っています。

 その中で、フリマアプリの浸透やコストコなどの業務用・大容量スーパーの人気が示すような「コスパ」、また、フードデリバリーやタクシーの配車サービスのような「タイパ」といったパフォーマンスに関する価値観が、シンプルなものから徐々に変化しています。「タイパ」×「コスパ」といった複数の価値の組み合わせにより、個人の満足度や充足感を深く追求するなど、よりパフォーマンスを重視した価値観の訴求が必要になっているのです。

 例えば、一過性のブームに終わったと思われていたアサイーボウルの再燃は、健康(=「へルパ」)と朝食にも合う手軽さ(=「タイパ」)を両立する、パフォーマンスを意識した価値観の浸透とも捉えられます。このような価値観の変化を深く理解することが、2026年以降のトレンドをつかみ、成功に導くカギとなるでしょう。

 本記事では、こうした消費者心理の変化を基に、複数の価値の組み合わせに着目しました。以下では、これに基づいた、2026年に注目すべきキーワードや具体例を5つ解説します。

消費者心理の変化を基に、2026年に注目すべき、複数の価値の組み合わせ5つを解説する

①「贅沢感」×「パーソナル」=ハーフサイズ(志向)の拡大
💡ハーフサイズ総菜など小容量商品が人気!

贅沢感とパーソナルでハーフサイズ志向の拡大により、ハーフサイズ総菜など小容量商品が人気

 コンビニやデパ地下の総菜においてハーフサイズや小容量での提供が増えています。グラム単価が上昇しても、これらを消費者が選択するのは、食事に一品追加したり、お酒のつまみや健康を意識したサラダとして楽しんだりすることで、自分だけの満足度を高める消費行動が顕著になっているためと言えます。「少しずつ、いろいろ」楽しみたいというニーズは、節約意識からくるものではありません。むしろ、節約とは真逆の、「自分のための贅沢グルメ」を求める、個食時代における新たな価値観として考えておくことが良いでしょう。例えばローソンの「えらべるデリ」もそのようなニーズを意識した商品施策であると言えます。

 自分一人の時間を大切にする、充実させるニーズの拡大において、消費者はなんとなく一品を選ぶのではなく、自分の状態に合わせて、その時必要な要素を一品として選ぶようになっています。そのため、例えば主食にプラス一品することで食事を豪華にしたい時や、お酒のつまみにちょっとした贅沢を加えたい時など、おのおのの目的、パフォーマンスに合わせてカスタマイズできることが必要になります。

 これには、消費者がどのようなタイミングで、どのような目的をもってハーフサイズを選ぶのか、その立場に立つことが重要です。そして品ぞろえだけでなく、「どのシーンで食べるべきなのか」「どんな場面に向いているのか」を訴求することも意識しなければなりません。だからこそ、ネーミングを工夫する商品も増えているのでしょう。パーソナルな食の時間を豊かにできる仕掛けを意識した商品に2026年も注目していくべきでしょう。

②「満足感」×「精神的ヘルパ」=ギルティーフリー
💡麻辣湯などちょい健康メニューが人気!

満足感と精神的ヘルパでギルティーフリーとして、麻辣湯などちょい健康メニューが人気

 コロナ禍の初期には、感染症に対する恐怖の中で、健康への意識が必然的に高まり免疫力を上げる商品などが流行しましたが、それも中期になると変化し、外出自粛のストレスを発散する形で、二郎系ラーメンやマリトッツォに代表される「背徳系メニュー」が流行しました。これらは一見すると、真逆のように感じますが、単に身体的な健康を求めるだけでなく、食を通じて精神的な健康を求めるという点では同質のように考えることもできます。このような中、2026年に注目するのは、精神的な健康(=ヘルパ)を訴求する意味での「ギルティーフリー」の消費者のマインドです。

 「ギルティーフリー」の消費者マインドとは、我慢をしないわけではなく、「極力しない」という感覚で、その時々の気分や体調に合わせて柔軟に食生活を楽しむスタイルを指します。2025年は「麻辣湯」という形で春雨を使った麺メニューも流行しましたが、健康オイルを用いたラーメンや、米粉麺を使ったメニューなど、我慢せずに「ちょっとした調整」ができる商品が支持されています。その他では、ハンバーガーチェーンのモスバーガーが提供する「グリーンバーガー」もそんなギルティーフリーの商品の実例と言えます。食事に健康的な要素をプラスすることで、満足感を保ちつつ罪悪感を減らす食シーンも現れており、さまざまな角度から「ギルティーフリー」のニーズの高まりが見られています。

 このようなニーズに対応していくには、先述したように素材や調味料などメニューを構成する要素への注力が重要になるでしょう。すでに中食でも米粉の唐揚げやプラントベースミートなど肉系メニューで満足感を保ちつつ罪悪感を減らすグルテンフリーや植物性のメニューを広く目にするようになりました。まだ消費者に知られていない素材・調味料の活用や、工夫の仕方は他にもあるはずです。消費者の食を楽しむシーンを想起しながら、満足と精神的な健康を両立したメニューを設計することがこの「ギルティーフリー」のトレンドをつかむポイントとなるでしょう。

③「定番」×「新規性」=進化系メニュー
💡パンスイスなど進化系スイーツが人気!

定番と新規性で進化系メニューとして、パンスイスなど進化系スイーツが人気

 昨今「クロフィン」や「パンスイス」のような、異なるメニューや要素を組み合わせることで生まれる「ザクふわ」「ふわもち」といったハイブリッド(複合的)な食感を強調する「進化系スイーツ」が浸透しています。これは、“定番商品に一工夫を加え「進化系〇〇」と銘打つことで、新たな商品を消費者の想像しやすい形に変化させるアプローチ”です。

 このアプローチは、マリトッツォの流行以降、目新しいメニューの登場が少なくなり、また、類似品やイタリア菓子という傾向を踏襲したメニューの販売も芳しくなかったことから、消費者が目新しい商品に飛びつく傾向が弱まったと判断された状況下において浸透しました。経済状況を含め、今後もあまり大きく世の中の状況が好転しないことを考えると、2026年も引き続き注視していくことが必要だと思われます。

 その中で特に注目したいのが、風味の組み合わせの進化です。例えば、和菓子の要素を取り入れた「ネオ和菓子」のように、なじみのある味に新しい要素を掛け合わせることも多くなっていますが、「定番×新規性」の組み合わせにより、既存メニューを進化させる傾向が強まるように思われます。直近で言えば、例えば、ファミリーマートで展開された「オモテもウラもおいしいパン」も今までコンビニベーカリーパンの概念を変えるような進化系メニューの一つと言えるでしょう。

 具体的には、インバウンド需要なども鑑みて、「味噌とキャラメル」や「抹茶とチーズ」といった和洋折衷の組み合わせが、新たな進化系のアプローチとなる可能性を秘めると考えられます。その他にも、あんこの「つぶつぶ」やナタデココなどの「コリコリ」とした食感を取り入れることも、消費者にちょっとしたサプライズを与えるアプローチとなります。既存の思考にとらわれないアプローチで商品の可能性を広げる進化系メニューに2026年も注目しましょう。 

④「タイパ」×「本格品質」=贅沢冷食
💡冷やし中華や寿司など本格冷食が人気!

タイパと本格品質で贅沢冷食として、冷やし中華や寿司など本格冷食が人気

 これまで「ファミリー層が有事のためにスーパーでまとめ買いするアイテム」の立ち位置であった冷凍食品は、「単身者が一人飲みや夕食の一品、さらには主食のためにコンビニで買うアイテム」の立ち位置まで役割と売り場を広げています。冷凍食品は、単なる保存食としての役割を超え、「時短(タイパ)」と「ちょっとした贅沢(コスパ)」を両立する存在へと進化しています。

 このような冷凍食品の進化は、2026年以降も発展の余地があるように思えます。監修メニューの充実やコースメニューの提供など、直近の冷凍食品市場におけるこれまで以上に品質の高い商品の登場は、さらなる可能性を示唆しているように感じるからです。 
 
 今後の進化の方向性で言えば、例えば、今年発売になった「銀座おのでら」の監修する冷凍食品である、「鮨 銀座おのでら 冷凍鮨 10貫セット」のように、今まで「生食が基本」とされてきたメニューにまで冷凍食品が進出したことは、冷凍技術の革新が、消費者の「冷凍=品質が劣る」という従来の認識を覆した象徴と言えるでしょう。これにより、消費者は自宅にいながらにして、手軽に本格的な寿司という「特別な贅沢」を享受できるようになりました。

 また、煮込み料理やオーブン料理など、通常の調理に時間がかかる商品も今後トレンドとして期待できると考えています。これらは、家で作るには手間がかかるものの、冷凍食品なら本格的な味わいや特別感を簡単に味わえます。実際に惣菜ブランドの「ロック・フィールド」が展開する本格冷凍食品ブランドのRFFFでも「牛肉100%ハンバーグ デミグラスソース」や「桜島どりと4種クリーム煮込み」、「ベーコン巻きロールキャベツ トマトと野菜のソース」などが販売されており、手軽に満足度の高い料理を求める消費者のニーズが伺えます。このように、素材や製法によって、煮込み感やコクといった高品質な要素を持ち合わせたメニューを活用することで、消費者は食事のパフォーマンスを格段に向上させられます。これは、単なる「時短」を超え、食卓の「高品質化」を可能にする新たなトレンドとなるでしょう。冷凍食品は中食業界にとっても存在感を高めているカテゴリーの一つとして注目しましょう。

⑤「コスパ」×「付加価値」=安さ以外で選ばれるPB商品
💡監修商品など付加価値の高いPB商品が人気!

コスパと付加価値で安さ以外で選ばれるPB商品として、監修商品など付加価値の高いPB商品が人気

 長引く物価高騰は、消費者の節約志向を強く促し、PB(プライベートブランド)商品への注目を再燃させています。PB商品はもはや、「ただ安い」ではなく、品質と付加価値が伴うことで「お値段以上に納得」の普段使いの商品として認知されつつあります。それだけにPB商品は、単なる安価での商品提供ではなく、ブランド全体として価値を高めることも重要になっていると言えるでしょう。今までのように商品のリニューアルを通して、消費者の望む味わいを実現するだけでなく、カテゴリーの新陳代謝として新しいラインアップを導入し、ブランドイメージの強化も努める必要があります。例えば、セブン-イレブンの「金のボロネーゼ」もPB商品の価値、また、ブランドのイメージを高めた実例と言えるでしょう。

 例えば、手軽に本格的な味わいを楽しめる、プレミアムタイプのPB商品の拡充は、ブランドイメージ強化に直結するアプローチと言えます。単なる既存商品のマイナーチェンジにとどまらず、「ワンランク上のごちそう」としての価値を最初から訴求する新メニューを展開することで、カテゴリーの質を向上させると同時に、品ぞろえの幅に奥行きを生み出せます。また、プレミアムタイプのPB商品は客単価を押し上げることはもちろん、今まで以上に魅力的な売り場が維持され、消費者の選択の幅を広げ来店頻度を高める効果も期待できます。物価高騰の時代だからこそ、PB商品に期待する消費者は多いはずです。安心して価値を感じる商品だけでなく、気軽に付加価値を感じられる商品も訴求するなど、今一度さまざまな角度からPB商品の可能性を探っていくことも重要になるでしょう。 

おわりに:根底にある消費者ニーズの流れを理解する重要性

 本レポートで挙げたトレンドキーワードは、物価高騰や社会状況といった外的要因が、その時々の消費者ニーズを加速させ、具体的なトレンドとして顕在化したものです。このキーワードを読み解く上で重要なのは、これらのトレンドの根底にある「消費者のマインド」とそれぞれのキーワードの裏にある、これまでの提供価値と現状の立ち位置を深く理解することです。キーワードをそのまま読み取るのではなく、なぜそのキーワードが注目されているのかを多角的に見て本質を捉えなければ、今のトレンドは理解できても、その先で何に注目すべきかが見えてきません。本記事はその部分も含め、トレンドの要因を挙げています。こちらの内容を通して、消費者の内面や市場の状況整理がなされ、価値ある商品が世に出ていき、消費者の手に渡る可能性が高まると幸いです。

 ミヨシ油脂では独自のトレンド情報も作成しています。次年度の食トレンドを予測するコンテンツ、「食のトレンド予測2026年版」もまもなく公開。本年は中食・総菜に着目したシリーズ記事を予定しています。消費者トレンドをまとめた「プロローグ編」を皮切りに、「ラーメン編」や「ハンバーグ編」などカテゴリーごとの注目要素を紹介します。こちらもぜひご覧ください。

流通ジャーナリスト 阿部牧人(あべまきと)
東京都出身、明治大学国際日本学部卒。大学卒業後、株式会社セブン‐イレブン・ジャパン入社、その後インド、中国、インドネシアにて現地コンビニチェーンのコンサルティング業務に従事。また、インドでは現地コンビニの立ち上げにもあたり、商品部門を担当。帰国後2022年より株式会社SARAHにて勤務。「月刊コンビニ(休刊中)」「月刊販売革新」などに執筆。

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