「ソフト食」ときざみ食やミキサー食はどう違う? メリットや調理のポイントをご紹介
介護食には、その調理方法や対象者のかむ力の違いなどにより、ソフト食、きざみ食、ミキサー食などがあります。本記事では、主にソフト食について、特徴や押さえておきたいポイントなどを解説しています。
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「ソフト食」をご存じでしょうか? ソフト食は、歯のない人やかみ砕く力が弱まった人でも食事を楽しめるよう、かつ誤嚥のリスクを減らせるように調理された介護食です。
本記事では、ソフト食の基本情報や、ほかの介護食との違い、導入する際に留意しておきたいポイントなどをまとめて解説しています。
「ソフト食」とは
「ソフト食(そふとしょく)」とは、家庭や介護の現場などにおいて、主に高齢者向けの食事として作られる、「通常の食事よりもやわらかめに調理された食事」のことです。ソフト食という呼称のほか、「やわらか食」、「軟食」や「軟菜食」といわれることもあります。
舌や歯茎で押す程度で、つぶすことができるほどのやわらかさであることが特徴です。
例えば加齢のほか、疾患などによっても、かみ砕く力や飲み込む力が落ちてしまうことがあります。そのような場合、食事がうまく飲み込めないことによる誤嚥や食が進まないことによる栄養不足などが起きる恐れがあります。
そういった場合でもしっかりと食事をとれるようにという目的で作られる、介護食の種類のひとつがソフト食なのです。
ソフト食は、歯や補綴物(ほてつぶつ)(※)がなくても押しつぶせるという点に加え、一般的には以下のような点を満たしている必要があるとされています。
・食塊形成(口の中で、食べ物をひとかたまりにすること)が容易であること
・口腔内での離水(食べ物の固形分と分離して出る、水分のこと)が多量すぎないこと
・一定の凝集性(押しつぶした後のまとまりやすさ)があって、飲み込んだときにばらけにくいこと
※ 補綴物(ほてつぶつ)……歯の欠損部分の修復のために用いる義歯やブリッジなどの人工物のことを指します
「ソフト食」と「きざみ食」の違い
同じように介護の現場で導入される食事形態のひとつに、「きざみ食」があります。きざみ食とは、食材を5mm~1cm程度の大きさに細かく包丁できざんだ食事のことを指します。ソフト食と異なり、食材の硬さ自体はもとのままであり、やわらかく調整するようなことは基本的にはありません。
きざみ食も、ソフト食と同じようにかみ砕く力が低下した人や、歯がない人でも食べられるようにという目的で作られる介護食のひとつですが、口の中できざんだ食材がパラパラとばらけやすい(口腔内でまとまりにくい)という面があり、例えば飲み込んだ後にも少量の食べ物が咽頭で残り、そこから気道に入ってしまうということが起こり得ます。
きざみ食はソフト食と比べて食材の食感などをそのまま楽しみやすいというメリットがある半面、誤嚥の原因になってしまう場合があるため注意が必要です。
「ソフト食」と「ミキサー食」の違い
ミキサー食もまた、介護の現場で導入されることの多い食事形態です。
かみ砕く力が低下した人や、歯がない人でも食べられるように、食材をミキサーにかけ、ペースト状(ポタージュ状)にした食事として提供されます。
ミキサー食は、提供の形態上、どうしても水分が多い食事となってしまうため、食べる人の体調や状況によってはむせてしまいやすい、誤嚥を起こしやすいという注意点があります。
また、液体状であるため、ソフト食と比べて食欲がわきにくいという人も多くいます。
そのため、ミキサー食を作る際にはとろみ剤でとろみをつけ、誤嚥が起きにくくする、なるべく食べる楽しみを感じてもらう、といった工夫が必要になるでしょう。
ソフト食のメリット
それでは、ソフト食の特徴やメリットを見ていきましょう。
見た目を通常食に近くできる
ソフト食の形態には、大きく分けて以下のふたつがあります。
・通常どおりに作った食事を具材ごとにミキサーにかけた後、片栗粉やゲル化剤などでもとのかたちに固める
・ミキサーにはかけず、舌と上あごで押しつぶせる程度にやわらかく煮込む、もともとやわらかい食材はそのまま提供する
いずれの場合でもペースト状にはならないことから、ミキサー食と比較しても、お皿の上で提供される料理の見た目や雰囲気を通常食に近いかたちに仕上げやすく、食べる人も食欲がわきやすいというメリットがあります。
かむ力が足りなくても飲み込みやすい
冒頭でご紹介したとおり、ソフト食は歯や補綴物がない人でも、押しつぶしやすい形態の食事です。
かみ砕く力が足りない場合でも、十分に飲み込みやすいように調理されます。
誤嚥(ごえん)のリスクが少ない
誤嚥のひとつの原因として口腔内での食べ物のばらつきや、咽頭で食べ物が残ってしまうことなどがありますが、ソフト食は口の中で食べ物がひとつの塊へとまとまりやすいため、誤嚥のリスクを抑えることが可能です。
ソフト食のデメリット
メリットの多いソフト食ですが、状況によってはデメリットとなり得る点もあります。順に見ていきましょう。
長時間煮込むなど、調理に時間がかかる
ソフト食は、すべての食材をミキサーで液体状にするミキサー食と異なり、食材によってはなるべくかたちを残してやわらかく煮込んだり、またミキサーにかけた食材をもとのかたちに再形成したり、といった工夫をほどこす介護食です。
したがって、一般食はもとより、きざみ食やミキサー食と比べても調理に時間がかかりやすいという面があります。
コストがかかる
調理時間が長くなりやすいことによる人件費のほか、ソフト食を作るにあたってゼラチン・寒天といったゲル化剤やとろみ剤などを必要に応じて使用するため、そういった材料面でのコストも比較的、かかりがちです。
人によっては苦手な場合も
この点は介護食全般にいえることですが、どうしても食材本来のかたちと比較して歯ごたえや食感が不足する、という理由で苦手と感じる人も少なからずいます。
ソフト食は、どのようなタイミングで試せばよい?
家庭でも、介護施設などでも、高齢の方の食事形態を変えるタイミングは重要です。
一般食から介護食へ変えることはもとより、介護食の中できざみ食、ミキサー食、ソフト食と変更していく際にも、食べる人の状況によって適切な変更を考える必要があるでしょう。
例えば、かむ力がまだまだあるのにソフト食にしてしまったのでは、食事意欲が低下してしまいますし、またかまなくなることにより本来残っていたかむ力もどんどん低下してしまうということになりかねません。
ご参考までに、ソフト食を導入するタイミングの一例としては、きざみ食をスムーズに飲み込むことが難しくなってきた場合、食事に時間がかかりすぎるようになってしまった場合、かつかみ砕く力が少し弱まってきたような段階で試してみるのもよいでしょう。
一般食からの切り替えとしても、見た目や香りを維持した食事をとれて、箸を使った食事というかたちも維持できるため、変化があまり大きすぎないのがメリットです。
もちろん、食べる人の状況ごとに細かく検討し、本人の意思なども確認しながら判断していくことが何より重要です。
ソフト食を導入する場合でも、無理にソフト食のみを取り入れるのではなく、状況や様子を見ながら一般食やきざみ食と併用していくのもおすすめです。
食べる意欲さえ失わず、維持できていれば、かむ力や嚥下力はリハビリなどで次第に改善していく可能性もゼロではありません。
ソフト食を作るときのポイント
ソフト食では食材を一度液体状にしてから再形成する方法や、食材を長時間煮込んでやわらかくする方法などさまざまな調理方法がありますが、ここではそれらに共通する、作る際のポイントをご紹介します。
ソフト食にしやすい食材を選ぶ
豆腐や果物などはもともとやわらかく食べやすい食材であり、ソフト食にぴったりです。
また、カボチャ、トウガン、サツマイモといった野菜も、煮込むことによって舌で押しつぶせるほどのやわらかさになります。
筋の多い肉や骨の多い魚は、やわらかく煮込んだり、加工したりするのが難しいため、避けておきましょう。
あたたかいものはあたたかく、冷たいものは冷たく
この点はソフト食を作る工程で、つい忘れてしまいがちです。一般食で本来あたたかい状態で提供される料理はソフト食でもあたたかく、冷たい状態で提供される料理はソフト食でも冷たくということを意識して仕上げましょう。
食べる前にイメージする温度と実際の食べ物の温度が一致することは、食欲にも影響する重要な点です。
彩りを工夫して食欲増進
ミキサー食と比べれば食材が形をとどめているものの、やはり食欲がわきづらいという人もいるのがソフト食です。食材ごとに皿の色や素材を変えてみる、食材の並べ方や盛り付けにも気を配るなど、なるべく食欲がわくような工夫をしましょう。
メリハリのある味付けが重要
高齢者の場合、かむ力や飲み込む力が低下しているほど、味覚も少し鈍くなっていることがあります。
ソフト食では、食感などが一般食に比べると均一気味になり、なおさら味の違いを感じにくくなったり単調に感じる場合もあります。
だしなどでなるべく食材ごとの味付けを変えたりと、物足りなさを補う工夫をすることをおすすめします。
香りの強い食材を取り入れる
香りが強めの食材としては、例えばゆずやシソ、バジルなどがあります。
嗅覚をほどよく刺激することで、ソフト食が味気ないという人でも、おいしいと感じてもらえる可能性が高まります。
季節の食材を取り入れる
春のイチゴ、夏のトマトやスイカ、秋のサツマイモや冬の白菜など、旬の食材をきちんと取り入れることで、食事の時間を楽しく感じてもらいましょう。
飲み物にも「とろみ」をつける
サラサラしている汁物などは、嚥下力が低下していると飲み込みにくいものです。とろみ剤や片栗粉などでとろみをつけて、口の中でまとまりやすく、飲み込みやすくしておくとよいでしょう。ただし、濃すぎるとかえって誤嚥を招いてしまう場合もあるため、とろみをつける際には濃度には注意が必要です。
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ソフト食を食べてもらうときのポイント
家庭や介護の現場でソフト食を作り、実際に提供する際に安全のために留意しておきたいポイントをご紹介します。
食事前のポイント
誤嚥のリスクを少しでも減らすポイントとして、食事に集中できる環境を作ることも重要です。
食事前にトイレや手洗いを済ませてもらい、食事をする部屋にテレビがある場合はテレビは消しておくとよいでしょう。
また、ベッドの上で食事をする場合には、上体を起こしてもらうことも大切です。
食事中のポイント
基本的に自分一人で食べられる場合は、何かあったらすぐ対処できるよう、近くで見守り、安心して食事を楽しんでもらえるようにしましょう。
また、食事の介助が必要な場合には、例えばおかずの後にご飯、次に汁物、といったように、飽きないよう食べさせる順番を工夫しましょう。
食事を口へ運んであげる際には、直前の食べ物をしっかり飲み込み終えたことを確認してからにすることも重要です。
慌ててしまうことや、食べ物が口腔内にたまってしまうことによる誤嚥のリスクを避けましょう。
食後のポイント
食後には、口腔内を清潔に保つため、歯磨きや入れ歯のケアなどの口腔ケアをサポートします。
また、食後は食べ物が胃から逆流してしまう可能性があるため、すぐに横になるのは避けましょう。
背中や腰が曲がっている人の場合には、上体を起こしすぎるとかえって胃が圧迫されてしまうリスクもあるため、ゆったりと背もたれでくつろげるような環境を用意するとよいでしょう。
ソフト食の作り方の一例
ここまでご紹介したように、ソフト食はミキサーにかけた食材をゲル化剤などで再形成するタイプのものや、もとの食材のかたちのまま、やわらかく煮込んだタイプのものなど調理形態がさまざまです。
ソフト食では必ずしもミキサーにかける必要はありませんが、ここでは一例として、ミキサーを使った調理手順の概要をご紹介します。
1、通常食と同じ食事をいったん作る
2、完成した食事を一度具材ごとに分けて、それぞれミキサーにかける
3、増粘剤もしくは片栗粉を加えて、さらにミキサーにかける
4、3でできたものにゲル化剤を入れた後、弱火にかける
5、固まりはじめたら、食材ごとのかたちをした容器などに流し込む
6、容器ごと冷蔵庫に入れ、冷やして固まらせる
7、皿に盛り、必要に応じて温める
ソフト食をはじめとした介護食を作るときに用意しておきたい調理道具
最後に、ソフト食や、きざみ食、ミキサー食など介護食全般において、作る際にあると便利な道具をご紹介します。以下でご紹介する道具は、必ずしもすべての場合で必要というわけではありませんが、役割などをご参考に、ぜひ確認してみてください。
・ミキサー
ミキサー食のほか、ソフト食の一部の調理工程にて食材を液体状にするために使います。
・フードプロセッサー
フードプロセッサーもミキサーと同様に食材を液体状にしますが、ミキサーよりは少し粗い仕上がりとなります。食材の食感を少し残したい場合、かむ力が残っている人に提供する場合などに活用するとよいでしょう。
・すり鉢、すりこぎ
ごまなどのもともと細かい食材をさらにすりつぶしたい際に重宝します。
・裏ごし器
食材のきめを細やかにし、なめらかな食感にします。栗やサツマイモ、ジャガイモなどをペースト状にする際にも便利です。
・マッシャー
ゆでたジャガイモや蒸した野菜などの食材を上から押しつぶします。調理のスピードもアップします。
・圧力鍋
食材をやわらかく煮込む際に、通常の鍋を使用するよりも調理時間を大幅に短縮できます。
・蒸し器
野菜や肉類などを、ミキサーにはかけずにやわらかく調理したい場合、蒸すのも大変効果的です。
高齢化社会でソフト食に注目が集まる
本記事では、かみ砕く力や飲み込む力が弱くなってしまった人のための、介護食の一種であるソフト食について特徴やポイントなどをご紹介しました。
ソフト食は、舌や歯茎で押しつぶせるほどのやわらかさであること、口の中でまとまりやすく水分が分離しすぎないなど、誤嚥が発生しづらいかたちにすることが何より大切です。
ソフト食をはじめとした介護食は、高齢化社会に向けてさらに需要が高まっていくことでしょう。
ご紹介した内容をご参考に、ぜひ介護食や、関連食品についての理解を深めてください。
▼ソフト食におすすめ!肉類や魚介類をやわらかくする品質改良素材「クレフルN」
【参考・出典】
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食分類2021(PDFファイル)」
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