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クロム廃液を安全に排水処理するには?

クロム廃液を安全に排水処理するには?

水質汚濁防止法や自治体の条例などで厳しい排水基準が定められているクロム(Cr)廃液には、人体に有害な6価クロム(Cr6+)が含まれることもあり、適切に排水処理を行わなければ法令に違反するだけでなく、会社のブランドを大きく損なうことにもなりかねません。ここではクロム廃液の特徴と適切な排水処理の方法を紹介します。

クロム廃液の処理には注意が必要

厚生労働省が公表しているGHS分類ではクロムを人体に有害な物質と分類しており、取り扱いに注意を求めています。人体に対するクロムの有害性として、ぜんそくなどの症状が出る呼吸器感作性、皮膚にアレルギー反応が起きる皮膚感作性、失明などの目に対する重篤な損傷や目刺激性などが認められています(*1)。具体的な症状としては、吸引により手足や顔などに炎症が生じ、さらにひどくなると鼻中隔(鼻の穴を隔てる部分)の内部組織に炎症が及ぶこともあります。また6価クロムの化合物には発がん性が認められており、クロムを扱う職場環境が原因で職業がんに認定される事例もあります(*2)。

今でこそ厳格なクロム廃液の処理に関する排水基準が定められていますが、基準が緩く無秩序に排水・放置されていた時代もありました。時折、古い工場の建て替え工事や撤去作業時に、土壌や地下水から基準を超えたクロムが検出され、大きく報道されることがありました(*3)。過去には建設工事にあたっていた従業員や周辺住民の健康が損なわれ、訴訟や損害賠償にまで発展した事例もあります。

クロムは重金属に分類される物質です。日本の4大公害病のうち水俣(みなまた)病、新潟水俣病、イタイイタイ病はすべて重金属が原因で引き起こされました。これらの原因とされる重金属は排水基準が設定されており、水俣病やイタイイタイ病の原因とされている水銀化合物は0.005mg/L、カドミウムは0.03mg/L、有毒性が確認されているヒ素は 0.1mg/L、鉛は0.1mg/Lと設定されています。健康被害が報告されている6価クロムの排水基準は0.5mg/Lと設定されていましたが、2024年4月よりこれまでの0.5mg/Lから0.2mg/Lに改正され、厳しくなりました。このことからも、クロム廃液の適正処理が法的・社会的にどれだけ重要視されているかがわかります。

どんな時にクロム廃液は発生するのか

クロムは一般的に次の理由からめっき処理によく用いられる物質です。

・光沢があり外観が美しいこと
・耐摩耗性や防さび性が優秀であること
・比較的安価であること
・金属としては安定していること

具体的には、自動車部品(エンブレムやドアハンドルなど)や水道蛇口、トイレのパイプ、金属装飾品、ゴルフクラブなどに幅広く使われています。

ドアハンドルのめっき加工

めっき処理工程 は主に、対象物の洗浄や表面処理を行う前処理、めっき処理する本処理、めっき後の表面膜除去や乾燥・研磨を行う後処理の3工程に分けられます。クロム廃液が発生するのは主に後処理の部分です。めっき処理された後の製品を洗浄する過程で、付着していた余分なクロムが化学薬品などと一緒に流されて廃液となります。また、めっき槽の定期的な洗浄作業などでも発生します。

重金属の基本的な排水処理方法

重金属は環境問題や健康被害を引き起こしやすく、世論が敏感に反応しやすい物質です。日本では公害の教訓から法的な規制も厳しくなり、それと同時にさまざまな排水処理の方法が開発されてきました。現在行われている重金属の排水処理は主に「アルカリ凝集沈殿法」「共沈法」「硫化ソーダ法」「重金属捕集剤添加法」の4種類です。

アルカリ凝集沈殿法とは、重金属をアルカリとの反応によって水酸化物にして凝集沈殿させて分離する方法です。重金属の排水処理の中で最もよく用いられる方法です。多くの重金属は苛性ソーダといったアルカリの薬剤と反応する性質があり、これを利用しています。アルカリ凝集沈殿法はpHと投入する薬剤の量を、対象とする重金属が沈殿するレベルに調整するだけでよいので運用が簡単であるというメリットがあります。

共沈法もアルカリ凝集沈殿法と同じく対象物を凝集沈殿させる方法ですが、沈殿させる原理が異なります。化学的に性質が近い物質が液体の中に一緒に混ざっている時、その物質を沈殿させると、それに伴い対象物もつられるように沈殿する「共沈」という現象を利用しています。

対象物が沈殿する理論上のpHよりも低いレベルで沈殿させたり、単体では沈殿させにくい物質を簡単に分離できたりするなどのメリットがあります。

硫化ソーダ法は、対象物が混ざった廃液に硫化ソーダなどを加えて硫化物を生成して分離する方法です。他の方法と比べて重金属をより高い精度で分離できますが、硫化物は他の方法よりも沈殿しにくいため、凝集剤などの助剤を用いて沈殿しやすくするなど、追加的な処理も必要となります。また処理条件によっては硫化水素が発生することもあり、運用には注意が必要です。

重金属捕集剤添加法は、液体キレート法と呼ばれることもあります。重金属を含む廃液に重金属捕集剤(キレート剤)を添加し反応させて不溶性の化合物を作り凝集沈殿させる方法です。場合によっては沈殿しやすくするために助剤を加えることもあります。中性のレベルから反応し、一般的に反応する範囲も広いため、pH調整の運用が軽減されるメリットがあります(*4)。

クロムの廃液処理の特徴と課題

アルカリ凝集沈殿法が重金属処理でよく用いられることを紹介してきましたが、6価クロムの場合、そのままではアルカリ剤を投入しても水酸化物にならず、沈殿しないという特徴があります。これを解決するために還元剤を使用する工程を挟み、3価クロムにしたうえでアルカリ沈殿させます。 ただし、次式で示すようにアルカリが過剰になると[Cr(OH)4]となるため再溶出してしまいます。

3価クロム4価クロムの構造式

また、適切な還元反応を行うにはpHの範囲が限られているため、反応中にpHを適切に維持する運用も加わり、煩雑になりやすいという課題があります。再溶出を防ぐ意味でもpH調整の薬剤と運用が必要となり、通常のアルカリ凝集沈殿以上のコストがかかります。

ここまで紹介してきたように、クロム廃液処理には環境、健康、法令、そして社会的に厳しい目が向けられています。ミヨシ油脂はクロム廃液に対する検討を長年行ってきており、対応して参りました。今後も排出事業者さまの現場の負担を減らしながら安全・安価に処理できるよう、商品開発に全力で取り組んで参ります。

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出典
*1:「クロム, GHSモデル SDS情報, 職場のあんぜんサイト」(厚生労働省)を加工して作成
*2:「化学物質ファクトシート(2021年改正対応) 6価クロム化合物」(環境省)を加工して作成
*3:六価クロム鉱さいによる汚染土壌, 江戸川区
*4:亜鉛の処理技術について( 環境省)を加工して作成

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